FOCKE-WULF Ta152 MECHANIC FILE
去る1月18日のこと。何の気なしに本屋へ入った数分後、むんずと手にしていたのがコレ、滅亡間際の第三帝国が放った幻の翼・Ta152の解説書です。表紙などを飾る模型は中田正治氏がハセガワ1/32 D-9を元に実質フルスクラッチ!MODしたもの、よくやるワ。初版発行が1月18日と、本屋に並んだその日に買ったワケですが、既に帯は破けていました。誰かは知らんがデリカシーの無い奴だ!
開発概史および機体構造の変遷、「なぜそうなったのか」が詳細且つ平易に綴られています。旧独航空省創設や空軍再建などの前振りBf109のトコで書けばいいのでは、と思っちゃダメ?、Me155・209、Fw190D・HからTa152に至る過程は本書タイトルからすればやや冗長な印象を受けますが、どうもその筋では「特殊高高度戦闘機」を語る上で外せないポイントらしい。あと個人的主観では野原さんの本に比べて視覚に訴える部分が弱いと思います。
「はたしてコレでホントに飛ぶのか?」傑作と持ち上げられる本機ではありますが、旧独機贔屓の書籍ではまず触れられることの無かった安定性不足に係る一節は短いながらファン必読です。飛行機は非常に繊細な乗り物、一度崩れだしたバランスはちょっとやそっとの修正で解決できるものではありません。即戦力化を可能にしたかに見えるツギハギ設計生産性・整備性を考え各部をコンポーネント化していたとはいえ、発展性という点ではアメリカ機のようにはいかず、かなり無理をしている。グリフォン・エンジン搭載のスピットファイア後期生産型も操縦は「難しかった」そうなは生産ラインの基本的な部分をどうしても動かしたくなかった製造側の都合であろうことは想像に難くなく、Dシリーズも平行して開発されていた本書のDシリーズ編も熱望!あたり「1機でも多く」という焦りが窺えます。またそのためにかえって遠回りした部分もあったのでは、思わずにいられません生産段階で機関砲が減らされたのは機体の大型化=重量増がかなり響いていたのでは、旧独機では常についてまわった過給機の問題もドライブトレインを含めたエンジンの開発はその国の「基礎体力」が問われる。Jumo213Eは振動問題が解決できず「そうでもしなきゃブースト圧が稼げなかった」3速ギアは事実上封印状態だったらしい。
自ら四発重爆を討ちに出る筈だったH型も当時既に空軍の主力となっていたMe262・He162の離着陸支援(空中見張り)にD型ともども就くことになったガソリンが足りなかったからでもある。ジェットは精製度の低い灯油で飛ばせるのは御存知の通り。「米英機に比べダッシュに欠けた」との指摘もあるようですが、タンク技師のエピソードから想像するにパワーブースターがあればそれらと比肩しうるものだったようで、実際任務に当たる時間はけっして長くなかったことでしょうからどうにか事足りた、とみていい?詳しい方に御教示願いたいところもちろん絶望的戦局とは別の話。
「社会的成功を修めた人ほど老いるのが難しい(三好春樹・要旨)」…飛行機も人生も着陸が最も危険。ふりかかる諸難を排しつつ僚機の着地を見届ける様はまさに介護職の姿そのものと言えるのではないでしょうか、「あたしゃ舞い上がったりしませんよッ!」。
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コメント
一昨日、NHK総合テレビで零式艦上戦闘機の番組を見ました。
当時10代だった予科練習生でも80代半ば、
開戦時からのパイロットはすでに90代半ばで、
日米12人のインタビューはじつに貴重でしたが、
みなさん、じつにしっかりとインタビューに応じられてたのが印象的でした。
わたくし、あのトシになったら、絶対あんなふうには答えられませんね。
やはり戦闘機パイロットつーのも、老いと無縁なのかっ?
当時のエンジンと機体で飛行可能なのは、52型一機だけだったんですねえ。
Ta152、究極のレシプロ戦闘機として記憶にあるのですが、どうなんでしょうね。
投稿: 98k | 2010年2月 8日 (月) 00:31
98kさま、ド~モです。
>老いと無縁
鍛え方が違う、ということ?
「どうなんでしょうね」とは多くの人が思っているのではないでしょうか。当時の飛行機は開発のたびに重くなるのが常でしたが、本機も機首延長、鋼鉄製ロンジロン、桁が途中で途切れた主翼、燃料タンク増設、装甲強化、木製尾翼、重心補正のバラスト、当然それに伴い足回り強化…と、どこにも軽量化の話が出てきません。読んでいて「ダイジョーブナノカ!?」、エンジンの馬力はそう増えているわけではありませんので。
戦後英軍がテストしたH-1は高度10670mで684km/h(パワーブースター未使用)とあり、ドライブトレインの不調を考えれば概ね計画性能はクリアしていたのではないかと思います。
投稿: alaris540 | 2010年2月 9日 (火) 10:29