安全な現場の騙し方
今月初めのこと、山下リネンサプライのデスクワーカー達が「安全なベッドの使い方」と題し漫談に押しかけて来ました。近年ベッドの事故にまつわる医療訴訟が増加している、とお決まりの脅しをかけたうえで「あくまでベッド屋の問題、ウチは悪くない」式の「事故防止」と称する各種規定・点検要領を「無知蒙昧な現場職員に光を当ててやるから心して聞けこれだけ言っておけば実際に事故が起きても『現場レベルの問題』と我々は逃げがうてる」という内容。
バリアフリー2009でチョコッと書いたことの繰り返しになりますが、結論を先に言えば「それがベッドだから」。ベッドがベッドである限り、ギャッチがギャッチである限り、柵が柵である限り、昨今言われるところの事故は絶対に防ぎきれません!「正しく使ってこその道具」を安易に「使い方が悪いから事故が起きる」へすり替えるのはモノを作って売ることを生業とする者の恥と心得るべきです。どの分野も状況は似たり寄ったりでしょうが、福祉機器は特にその開発思想面においてまだまだオクレテおり利幅の大きさにあぐらをかき続けた結果?、なるべく事故・訴訟はあって欲しくありませんが素材・技術の熟成にはある程度避けられない試練であることの証明にはなっているのではないでしょうか。それでは医療・介護ベッド安全普及協会「ベッドの安全使用マニュアル」を引用しつつ、幾つかの項目について検証してみましょう。
- JIS規格:「福祉用具分野の安心安全への取り組みが必要であり、今後はJIS規格が普及してくる。(当日頒布されたパラマウントベッドの資料より)」…基本的約束事とは言え、規格ッテエのはマルクス主義と一緒でそれ自体が人を幸せにするわけではない。どうも日本人はこのあたりを安易に考える傾向があるようだ
- ベッド柵類でのはさまれ事故:ギャッチベッド特有の構造的問題。間隔が何mm、とは明らかに逃げ口上、隙間がある限り指1本からへし折ることが可能だ「閉塞感軽減」は嘘ではないが後からとって付けたであろう屁理屈。製造側としてはこれ以上溶接の治具を複雑化させたくないことだろう。なお差込式の柵にはカバーなんてのもオプション設定されているが、病院・施設向けレンタル機では見たことが無い。これまた事故予防なのか最近の機種はマットレス幅に対する柵の左右ピッチがギリギリまで詰められたため、寝返りの際ひざがブチ当たりやすくなった
- モーター操作の独立化:上位機種の中には複数のモーターが連動するものもあるが、これも「事故予防」とかで個別に動かすものが増えている。不用意な動きを防ぐつもりだろうが、むしろコストの問題ではなかろうか
- 耐荷重:100kgだの120kgはたぶん静荷重、だとしたら「たったそれだけ!?」。「ショック100倍」という機械用語「ガツン」は「グイッ」に対しときに数百倍の荷重がかかるを一応は知っているのか「やむを得ず数名の人がベッドに乗った場合はかならず点検しましょう。」とあるが、病院・施設にあってはベッド・ストレッチャー間の移乗など日常茶飯事、そしてソレで受けるということになっているダメージは今日の明日では判らないときている。当院で使っているパラマウント、高さ調節機構のリンクプレートは「よくぞコレで」なほどペラペラ、ピボットのネジも小指の太さほどしかない。ヘッドボード&フットボードも簡単な金具で引っかかっているだけで、当たり所によってはヒン曲がってしまいそう
- 低床化とキャスターの破損多発:ベッドの低床化は歓迎だがそれに合わせてフレームも低く下げられ、キャスターまで小さくされてしまった。キャスターの小型化は強度・耐久性の低下のみならず、キャスター自身の踏ん張りも明らかに弱めてしまっている。「キャスターとは別にジャッキが欲しい」との私の繰言に対し山下リネンは「そういう機種もある」と言い張ったがこれは嘘。命を預ける部品を「消耗品(だからしかたがない)」などと大口を叩くのは信用失墜行為!また医療・福祉の現場はオバサンが多く、どんな使い方、どんなブツケ方・壊し方をするか予測或いはリサーチできないようではプロの設計屋とは言えない
- 転落事故:これはベッドそのものに適性がない、とみるべき。座敷に布団の生活だった人にはやっぱり座敷に布団なのだ。「車いすを横付けしやすく」とサイドフレームを途中で切った機種は柵を差す位置が限定されるため「すり抜けを防げない」と現場で不評をかこっている。畳部屋が欲しいよォ~
- ケーブルの挟まれ・踏みつけ事故:有線式の宿命、などとブッこくのは素人以下。量販店で叩き売りされてる安物の掃除機にだってコードリールが付いてるゾ!リモコンがワイヤレス化混信を防ぐ個別の暗号コードが要るかもしたら…枕や尻に挟んでウィ~ン、が多発しそう。「ボックスを手に取りボタンをポチッ」という操作法そのものを見直すべきでは?
…あらゆる角度からツッコミを入れた結果「我々が追求するのはコスト」とポロリ、馬脚をあらわすとはまさにこのことですこの程度で喜んでる私も私だが。改善要求に対しては「お宅の事務を通してくれ」の一点張り、フォローのつもりか「私どもは現場の声を…」が白々しく病棟に響きましたタクシー会社の渉外担当と一緒だ。「ウチは布団屋だからベッドとは違う」とでも言いたげだったが、アンタんトコの社長は福祉用具専門相談員協会の長だろーが!言い逃れは許さん。ベッドと言えども「一企業の商品に過ぎず、利益のためならある程度の薄氷は踏む田中三彦『原発はなぜ危険か』より」ことをあらためて実感させられました。医療はもとより福祉の事務主義・書類主義が進む中「使う人のためならある程度のコスト増はアリ」の職人気質は通じなくなっていくのでしょうか…最後に私の尊敬申し上げるC.タンク技師の設計理念を引用して結ぶことにしましょう、「そんなこと言ってたら商売にはならんヨ」との批判は百も承知で。
「兵器というものは戦場の過酷な状況に置かれ運用されるものである。また未熟なパイロットや整備員によって扱われるかもしれない。更に、戦場でダメージを受けても、あるいは修理された状態でも戦わなければならないかもしれない。(中略)戦場での馬は、競走の馬ではなく騎兵の馬でなければならない潮書房『丸メカニック№26 フォッケウルフFw190 A,F,G』より」
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