なつのロケット
「ヤングアニマル」誌に連載されたのが1999年、単行本化は2001年のことですので今更ながら、ではありますが…「ぼくがうまれた音」と同時に注文しました。
川端裕人「夏のロケット」をもとに、作者・あさりよしとお氏が宇宙作家クラブで出会ったロケットエンジニア・野田篤司氏のアドバイスで出来た漫画です。主人公の小学生達が担任教員の「実験」と称する火薬作りに触発されロケット制作に挑戦、という内容。作者はロケットで月旅行にいたる概論を過去に「まんがサイエンス」で描いていますが、そのロケットを「どうすれば自分たちの手で」飛ばせるか、というプロセスに踏み込んでいるところが本書のポイント。ただロケットが登場するだけなら児童書と同じでしょうが、本書は作者らしい示唆に富んでいます。
固体燃料ロケットでスタートした主人公達がライバルの後に微妙な緊張関係に変わっていくクラスメートに協力する形で液体燃料ロケットにスイッチするストーリー序盤はロケット開発史そのもの。また作者が2001年の省庁再編に伴う宇宙科学研究所と宇宙開発事業団の統合を見越して描いたものか、とは今だから言えることでしょうか。複雑ながら大出力が取り出せ、理論の積み重ねで実現可能な実際はそんなに簡単ではないが液体燃料ロケットに対し固体燃料ロケットの、単純だからこそノウハウが要求される難しさは自転車にも言えます。そのノウハウはどこで得るのか?ソレを実際に使う現場・実戦以外あり得ません。そしてより厳しい条件下で作っては壊し、作っては壊しを繰り返さなければ良いモノは出来ません。事実、過日の大井埠頭でもレースを走った自転車、特にフレーム、ホイール、サドルはそのほぼ全てが舶来でした。
更に、専門機関が先端技術をリードするのは当然としても、国家、もしくは国際プロジェクトともなればそのインフラが一般市民、それこそ本書のように小学生レベルで無ければその実現はおぼつかない、と感じます。アメリカのロケット開発は戦争のため、と批判するのは容易ですが、巻末の解説にもあるようにアレが出来るのはフツーの人々が裏庭で「モドキ」をボコボコ作って打ち上げちゃう土壌があってこそでしょう世界に先駆け液体燃料ロケットを開発したR.H.ゴダード氏はアメリカ人。日本もロケット・宇宙開発をやってはいますが、その動機付けが曖昧なまま、一般市民も特に必然性を感じていないように思います気象衛星「ひまわり5号」ダウンの危機の際、米「ゴーズ9号」が充てられたことに慌てた日本人は少ないのではないか?。
本書に登場する、人工衛星を打ち上げるのに必要な最小のロケットは地上であればまさに軽車両の存在意義。同じく解説「効率とか経済性だけが全てだろうか?(中略)地上でも、大型トラックと自転車が共存しているように、宇宙でも大型ロケットと小型ロケットとが共存すべきだ…」の一節に私はシビレましたね!ニーズと効率は必ずしも一致しないのですよッ。
画像はストーリーの核心、主人公が人として生を得た意味・生きることの主体性を問われる部分。大人でも尻ごみしてしまいそうな重大なテーマがわずか4ページでズンッとのしかかってきます。
てなワケで、読むとハマッてしまうため平日夜は開かないように心がけています。
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